既にすこし感想を書いてしまいましたが(^^;、もう少し掘り下げて書いてみます。
この本は中国製の商品の値段の安さのからくりを、深圳などで働く中国人労働者の視点から描いた好著です。
安いのには安いなりの理由がある、という当たり前の、でも見落としがちな事を書いています。しかもこれが各種データを示した定量的な分析本だったらあまり面白くも目新しくもないし、「ああ、やっぱりそうなんだ」的な感想で終わってしまうところでしょう。
しかし上記の通り、著者が足繁く労働者達の元に通い、心を通わせて、その人達の目線で実際の労働環境を描いているため、他人事、対岸の火事として見過ごせないだけの説得力があります。
なぜ価格が安いのか。
その理由の一つは、安全対策費用、環境保全費用などが折り込まれていないため、安くできているということ。
それから労働者達の権利が、開発先進国の基準で見るとないがしろにされていること。
但しこれは少々やっかいな問題で、単純に開発先進国並みの労働関連諸法によって労働者たちの労働環境、待遇を改善すればいいというものでもありません。中国でも既に最低賃金や週あたりの労働時間については法で決められています。しかしそれを守っていない工場が圧倒的に多いのです。これは複数の要因があります。
・買い手である開発先進国からのコスト引き下げ要求が強い
・南西部の貧しい地域から出稼ぎ労働者が大量に来るため雇用側が圧倒的に強い
・労働者達自身が少しでも長く働いて、残業代も含めて稼ぎたいと思っている
・労働者達は高い教育を受けていないため、法律や権利について疎い
こういった要因によって、「チャイナプライス」が維持されているのです。これは消費者である我々も、「チャイナプライス」に一枚かんでいます。つまり消費者が少しでも安いモノを求めているため、企業がそれに答えざるを得ず、そのしわ寄せが川上、つまり中国の工場に行き、そこで働く人々の利潤を搾取する、という構造になるわけです。
こういう構造的な問題は一朝一夕に解決するモノではないですし、一般消費者である我々に出来ることはなんなのか、はっきりした答えはないのでしょう。だからこそ著者のAlexは今でもこのテーマを深く掘り下げ、中国に頻繁に通い、日々情報をアップデートし、世界中を飛び回ってその現状を伝えているのだと思います。
非常におすすめの本で、ぜひ手にとって読んでもらいたい本です。
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