Foxconn Issue

忙しくてblogに書くのが遅れて、あんまりタイムリーではないのですが、逆にその間僕と似たような考えは全然ネットで見つからなかったので、僕なりの意見を書いてみます。この工場では友だちが働いているのでバイアスがかかった意見であることは認めた上で。

1年に13人も自殺する中国企業:中国市場をタオバオから開拓

自殺会社。 日経ビジネスに良記事が掲載:中国市場をタオバオから開拓

中国・香港やアメリカだけじゃなく、日本でもたくさん記事になっている、大手台湾系EMSメーカ、富士康(フォックスコン)の連続自殺事件。今年に入って13人も飛び降り自殺を図ったワーカーがいるとのこと(但しうち2名は助かってます)。

そこでここに製造を委託しているメーカーが調査を開始し始めました。

アップルとデルとHP、自殺続くFoxconnの深セン工場を調査中:CNET Japan

また、これらの事態を重く見て、富士康では賃金を30%上げることを決めたそうです。

China iPhone plant workers to get 30 pct raise:Shanghai Daily

自殺者が相次ぐFoxconn中国工場、30%の賃上げへ:CNET JAPAN

今回富士康が大きく目立ったのは確かに今年に入ってからの飛び降り自殺が多い、ということなのですが、自殺の舞台となっている工場は深圳市龍華にあり、1つの工場だけで30万人とも40万人ともいわれるワーカーを雇用していることで昔から有名でした。日本の中小都市1つ分の人口で、実際工場の敷地内には学校から病院までそろっており、外に出る必要がないのだとか。

もう一点富士康が目立った理由は、上記の通り世界的に有名なIT機器メーカーのEMSであること。多くの有名なIT機器メーカーが富士康に製造委託しているため、「スティーブ・ジョブスが中国人の若いワーカーを搾取している」という、わかりやすい絵を描きやすかった、ということでしょう。

ここで実はこっそり(?))得をしているのはNokia。Nokiaの名前を挙げている記事が非常に少ないのですが、それはアップルに比べると地味だから、なのかもしれません。実際に富士康龍華工場の一番のお客さんは実はNokiaで、アップルその他はその他大勢、だそうです。

さて僕自身の華南地域での仕事の経験や、かねてからオススメしている『China Price』や『Factory Girls』の内容と照らし合わせると、今回は富士康が目立ちすぎたからたたかれただけ、だと思ってます。

確かに富士康は従業員に厳しいメーカーの一つ。しかし台湾系はどこも厳しい、というのが定評です。そして中国系、日系含めても、どこでもワーカーの労働条件・環境というのは似たり寄ったりで、上記ギズモード・ジャパンに書かれているような事は華南地域では当たり前。当たり前、という現実が良い悪い、ということではなく、富士康が特別劣悪だったわけでは決してない、ということです。

自殺者の数にしても、工場内の総ワーカー数から考えたら異常に高いとも言い難いし、数として目立たずニュースバリューが無かっただけで、実際には華南地域では他のメーカーでも同じようなことが同程度の割合であったんじゃないかと思います。

さらに言えば、飛び降りた人達は、自殺する前に工場を逃げ出す、という選択肢もあったのです。労働条件・環境が悪いのは確かに間違いはないけど、そこで働くことを強制されてきたわけでは決してないはず。ちなみに今でも富士康の前には職を求めて人が並んでいます。他の企業と比べても富士康は実は待遇は悪くないのです。

『Factory Girls』に詳細がありますが、華南地域ではワーカー引き留め策として、1ヶ月ないし2ヶ月分の給料を働く前にデポジットとして預けるか、最初の1ヶ月ないし2ヶ月はサラリー無しで働き、「正規に退職する」場合に払う、という工場が多いのです。

が、実際にはお金を取り返さずに工場を逃げ出して別の工場に移るワーカーは結構いるようです。正確な数字はわかりませんが、自殺率よりは遙かに高いはず。富士康の飛び降りた人達もデポジットを捨てて逃げ出す選択肢は確実にあったと思うのです。だからこそ、逆に何故飛び降りるという選択なのか、というのは疑問ではありますが。

ここまでは華南地域の実態を見聞きしている人なら誰でも同感してくれるだろう内容だと思います。が、僕はもう一つうがった見方をしています。それは、「富士康、もしくは中国の政府筋が、華南地域の労働条件・環境の向上を狙って、今回の件を利用しているのではないか」というもの。

『China Price』を読めば、何故中国製のモノが安いのか、そして世界中の消費者がそのおかげで恩恵を受けている、ということを理解できるはずです。

現在、モノの流れでいえば川下から、消費者→完成品メーカー→製造メーカー(下請け、部品製造加工含む)という流れで価格値下げの圧力が働いています。つまり安くしないと消費者からそっぽを向かれる、ということで、ひたすら値下げ値下げと、メーカーは厳しい要求を日々突きつけられています。

メーカー側からこの圧力を跳ね返すのは難しいのが現実。そしてそれが現在の華南地域の労働条件・環境の大きな要因です。

しかし今回の連続自殺事件のため、政府からも人を派遣しているし、最終完成品メーカーである大手IT機器メーカーも調査に乗り出しており、「なんらかの改善」が必要かつなされるのは間違いないです。

そしてそうするには当然お金がかかります。ワーカーの工賃を30%あげる、というのはまさに最たるもの。その原資はどこから捻出するのか、といえば、当然コストに上乗せされるわけです。

つまり今回の件を機に、川上から労働条件・環境改善に伴うコスト上昇を理由に、販売価格の値上げを買い手に飲ませようとしているのではないか、と、僕は勘ぐっているのです。いや、決して悪いことではないのですが。

実は富士康が30%値上げしてそれでおしまい、には決してなりません。これは華南地域に波及します。つまりこの地域の他の工場でも多かれ少なかれ賃上げせざるをえない状況になるというわけです。そうしないとワーカー達は賃上げしない工場を辞めて賃上げする工場に移ってしまうから。

そうでなくても広東省では昨年比で25%程最低賃金が値上げされることになりそうな予測が出ていて、工場経営者のみなさんが深いため息をついているところ。ここで富士康ががーんと値上げしてしまうと、その波及効果がどうなるか…富士康は世界中から注目されているから買い手に値段交渉も出来るでしょうが、他のメーカーはそう簡単にはいかないでしょうね。

富士康に同情的に書いてきましたが、1点こんな情報もあるよ、ということで。

34時間働けますか? 従業員自殺が止まらないFoxconn、地獄の勤務体制が判明!:ギズモード・ジャパン

ワーカー達に厳しいだけではなく、エンジニアにも厳しいみたいです。但し日本でも同じようなケースがごろごろあるので、連続自殺事件とこの1件を結びつけて考えるのは短絡的だとは思いますけど。