香港に現代思想史がある事自体が驚きですが、それがさらに日本語訳として出ていることにビックリ。嶺南大学の羅永生教授のコラム、寄稿等を纏めて一冊にし、日本語訳したもの。
香港でも本として出されていないものをわざわざ日本で出すというのは相当大変だと思いますが、2014年に設立されたばかりの新しい出版社による試みだったそうで。
本書の1/3は1960年代に起こった中文運動について書かれています。僕もうっすらとそんなデモ運動があったらしいと名前だけは知っていましたが、その背景までは全く知らず、非常に勉強になりました。
そこから始まり、第二次世界大戦以前からの大英帝国による植民地としての香港、そして1997年以降の新たな宗主国としての中国を迎えいれるにあたり、『港人港治』の美辞麗句の元、実際には返還に関してまったく主体的に関われなかった香港人達の思想について、デモなどの社会運動の背景と絡めながら掘り下げて書いています。
『文化砂漠』『政治不在の経済都市』というレッテルをはがし、香港人達の素顔に迫った好著だと思います。
ちなみに新しい出版社だけに、こんな遊び心(?)が背表紙に。