『香港 失政の軌跡 アジア発ビジョナリーシリーズ』読了

本書原書発刊後逝去された著者の本ですが、イギリス統治時代より香港に関わってきたこともあってか、民主化デモに関してはほぼ言及せず、あくまでも中国返還後の香港政府、特に行政長官を始めとした政府高官による失政こそが、今の香港の数々の問題の元凶である事を示しています。

その示し方も、多くの根拠となっている物が政府高官自身による公開されている議事録やレポート、報告書からであり、中国系の本にありがちなゴシップ本的なものを基にした推測記事とはワケが違います。そのため説得力あるし、政府高官としてもケチの着けようがないという批評になっています。

本書で冒頭から失政の大きな問題の一つとして欠陥住宅問題が挙げられています。特に民間の住宅について、どうして品質が悪かったりビルメンテが適切になされていないのか、それは政府が正しいメッセージを出さず、民間のデベロッパが利するままに放置したからであると喝破しており、なるほどだから香港のマンションはどれも品質がイマイチなのかと初めて腑に落ちました。

また香港では大学進学率が昔から20%前後なのですが、これはエリート育成のためなのかなと漠然と思っていたところ、これも失政の一つとして一章割いており、役に立たない高価な副学士(ディプロマ)にお金を払った家族や学生が適切な職を見つけられず貧困で悩むことになっているとしています。

本書はこれまで読んだ香港問題本よりもより現実に即した課題を扱っており、非常にためになりました。